事故・災害の際の「捜索・救助のために行う無人航空機の飛行」は、航空法132条の3に基づき、ドローンに対する航空法上の規制(航空法132条、132条の2に基づく規制)の対象外とされている。災害時の被災状況調査も、人命や財産に急迫した危難のおそれがある場合における、人命の危機や財産の損傷を回避するための調査については、「捜索・救助のために行う無人航空機の飛行」に該当するとされている(出典:国土交通省航空局「無人航空機(ドローン、ラジコン等)の飛行に関するQ&A)」
http://www.mlit.go.jp/common/001218182.pdf)。
そのため、災害時の被災状況調査は、DIDの上空飛行、目視外飛行、人・物件の近接飛行及び夜間飛行等に関する航空法に基づく規制が適用されないが、規制の適用の有無とは関係なく安全の確保は重要であり、許可等を受けた場合と同程度の安全確保策を実施することが基本である。
国土交通省航空局の通知により、被災状況調査の際、特例適用者の責任において、安全確保のために必要な措置について、マニュアルを定め安全な飛行を行うことが望ましいとされている。マニュアルに記載すべき内容については、「航空法第132条の3の適用を受け無人航空機を飛行させる場合の運用ガイドライン」(以下にその抜粋を記載)に示されており、それに準拠して作成すると良い。
平成27年11月17日(国空航第687号、国空機第926号)
航空法第132 条の3並びに同法施行規則第236 条の7及び同規則第236 条の8の適用を受け、国若しくは地方公共団体又はこれらの者の依頼を受けた者(以下「特例適用者」という。)が航空機の事故その他の事故に際し捜索、救助の目的のため無人航空機を飛行させる場合であっても、特例適用者が第一義的に負っている安全確保の責務を解除するものではなく、極めて緊急性が高くかつ公共性の高い行為であることから、救助等の迅速化を図るため無人航空機の飛行の禁止空域(航空法第132条)及び飛行の方法(航空法第132 条の2)に関する規定の適用を除外していることに留意する必要がある。
このため、特例適用者の責任において、その飛行により航空機の航行の安全(注1)
並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれないよう許可等を受けた場合と同程度の必要な安全確保を自主的に行って、無人航空機を飛行させる必要がある。
(注1)航空法第132 条の3適用を受ける場合であっても、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律(昭和49 年法律第87 号)の規定は適用される。(略)
航空法第132 条の3の適用を受けた場合は、特例適用者の責任において、航空機並びに地上及び水上の人及び物件の安全を確保する必要があるため、あらかじめ航空局通達「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(国空航第684号、国空機第923号、平成27年制定)」を参考に、捜索、救助等の目的に応じた無人航空機の運用方法をマニュアルに定め、当該マニュアルに基づき安全な飛行を行うことが望ましい。
なお、マニュアル作成にあたっては、参考とする航空局通達をそのまま適用することが困難な場合があることなどを十分に踏まえ、状況に応じた無人航空機を飛行させる際の実施体制等を規定することが期待される。
<マニュアルの規定内容(例)>
以下には、人や建物の近傍で飛行させる場合や目視外飛行を行う場合等、通常の状況下では航空法に基づく許可が必要な行為を災害状況調査において行う場合の留意事項について記す。ただし、本来、どこまでの措置が必要かは、操縦者と機材・装備品の組み合わせ、安全装置の有無・機能・信頼性等に依存するものである。現時点では、知見の集積が不足しており、明確な基準を設定することは困難である。そのため、これらの留意点を単に遵守しさえすれば良いと考えるのは適切では無く、個別に検討の上で安全を確保することが望まれる。
今後もドローンの性能や信頼性の向上により、安全確保の基準は異なってくると考えられる。また、ドローンの技術に通じた方々との意見交換等を通じ、実務的な安全基準を形成していくことが望まれる。
ドローン調査者と被災状況調査をTEC-FORCEと一体的に行う場合は、例え災害時の(航空法第132条の3に基づく)特例が適用されない状況下でも30m規定は適用されないが、第三者でなくとも求められる安全確保の基準が本質的に異なるわけではない。
TEC-FORCE等の場合は、ヘルメットの装着等によりリスクの低減を図ることや、ドローンの近傍飛行を十分頭に入れ、接近時の声かけによりリスクの低減を図ることが望ましい。また、ドローンをTEC-FORCE等の近くで飛ばす必要が想定される際には、当事者間で十分な意思疎通を図りながら飛行を行うことが望ましい。
なお、ドローンの飛行経験が豊富な方々の意見を総合すると、TEC-FORCE隊員や作業者の近傍で飛行させる場合の離隔の考え方は、以下のとおりである。
風速 | 離隔 | 備考 |
---|---|---|
2m/s以下 | 3~5m以上 | 10kg以上の機体は、さらに数mの離隔をとる |
4~5m/s程度 | 5~10m以上 | 〃 |
なお以上で述べたことは、災害時のドローン活用の少ない知見の中で、次の災害に備えた暫定的な考え方である。ドローン飛行の安全性に関する公的機関の正式見解といったものでは、一切無い。
目視外飛行を行う包括承認を得ている操縦者と機材の組み合わせの場合であれば、現地で障害物、電波の状況、気象状況等に十分注意しながら目視外飛行を実施することが可能である。
目視外飛行を行う個別承認を得た経験がある操縦者の場合、許可を得た際と同等の体制であれば、包括承認を得ている操縦者に準じて、FPVによる操作を実施することが可能である。ただし、FPVによる操作時間が少ない等、操縦者に不安がある場合はその限りではない。
また、目視外飛行には、双眼鏡等を有する操縦者補助者のアドバイスを受けながらフライトを行うことが求められるが、災害時には、見通しの良い場所が得られない場合もある。FPVで操縦者及び操縦者補助者からの不可視範囲を飛行する場合は、飛行ルート上に双眼鏡と無線通信機(特小、VHF業務用等)を持った観測員を追加で配置することが望ましい。撮影班は、飛行ルート上に存在する障害物をWEB地図等で事前に確認しておくことが望ましい。なお目視外飛行の場合は、電線や木の枝等に気づきにくい場合もあるため、特に低高度の撮影では、慎重に飛行経路を確保する必要がある。
尾根等で遮られた先まで飛行させると、電波が届かなくなり機体の制御ができなくなる場合もある。特に、直進性が強い2.4GHz帯の電波を使用している一般的なドローンの場合はこの可能性が高いので注意を要する。
夜間飛行で得られる映像情報は、昼間の映像情報と比べて相当に限定されたものとならざるを得ない。そのため、夜間飛行の実施については、慎重に検討する必要がある。
ただし、夜間であってもドローンに赤外線カメラ等を搭載し、被災状況の把握を行う可能性がある。機体の姿勢及び方向が正確に視認できる灯火を装備し、夜間飛行を行う包括承認を得ている操縦者が配置できる場合で、第三者がいない状況であれば、機体を容易に確認できる範囲内でドローンを飛行させることは考えられる。
移動中又は作業現場において、事故や災害に巻き込まれた場合又は誰かに被害を及ぼした場合には、救護活動をすべてに優先させるものとし、応急処置を講じるとともに、必要に応じて直ちに119番への連絡等を行う。ただし、被災地で携帯電話もつながらない場合は、TEC-FORCE隊員とも連携しながら、通信や搬送等の手段を確保する。
ドローンの飛行による人の死傷、第三者の物件の損傷、飛行時における機体の紛失又は航空機との衝突若しくは接近事案が発生した場合には、次に掲げる事項を速やかに、ドローンの飛行許可を受けて飛行させる場合と同様、国土交通省航空局安全部運航安全課、地方航空局保安部運用課又は空港事務所まで報告する。なお、夜間等の執務時間外における報告ついては、24時間運用されている最寄りの空港事務所に電話で連絡を行う。
国土交通省東北地方整備局がフライトを依頼している場合は、東北地方整備局の担当部局へ、航空当局への報告に準じた内容の報告を行う。その他、県又は市町村が管理する道路・河川等でフライトを行っていた場合には、フライトを依頼した東北地方整備局の担当部局からリエゾン(現地情報連絡員)を通して、当該道路・河川等の管理者にも同様の報告がいくようにする。
次頁以降には、航空法に基づくドローン規制の内容を参考として記す。災害時の捜索・救助等の際には航空法第132条の3に基づき適用が除外されるものではあるが、安全確保のための基本として心得ておくべきものである。
航空法の一部を改正する法律(平成27年法律第67号)平成27年12月10日施行
何人も、次に掲げる空域においては、無人航空機を飛行させてはならない。ただし、国土交通大臣がその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないと認めて許可した場合においては、この限りでない。
有人の航空機に衝突するおそれや、落下した場合に地上の人などに危害を及ぼすおそれが高い空域として、以下の空域で無人飛行機を飛行させることは原則として禁止されている。
これらの空域で無人飛行機を飛行させようとする場合には、安全面の処置をした上で国土交通大臣の許可を受ける必要がある(図1-3)。
許可が必要となる空域は以下の通りである(下図(A)~(C)の空域)。
人口集中地区は、5年毎に実施される国勢調査の結果から一定の基準により設定される地域である。
航空法の一部を改正する法律(平成27年法律第67号)平成27年12月10日施行
無人航空機を飛行させる者は、次に掲げる方法によりこれを飛行させなければならない。ただし、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、次の各号に掲げる方法のいずれかによらずに飛行させることが航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全を損なうおそれがないことについて国土交通大臣の承認を受けたときは、その承認を受けたところに従い、これを飛行させることができる。
飛行させる場所に関わらず、無人航空機を飛行させる場合には、以下のルールを守ることが必要である。
上記のルールによらずに無人航空機を飛行させようとする場合には、安全面の処置をした上で国土交通大臣の承認を受ける必要があります(図1-4)。
航空法の一部を改正する法律(平成27年法律第67号)平成27年12月10日施行
前二条の規定は、都道府県警察その他の国土交通省令で定める者が航空機の事故その他の事故に際し捜索、救助その他の緊急性があるものとして国土交通省令で定める目的のために行う無人航空機の飛行については、適用しない。
航空法第132条(飛行の禁止区域)や航空法 第132条の2(飛行の方法)については、国、地方公共団体又はこれらの依頼を受けた者が、事故や災害時に際し、捜索、救助のために無人航空機を飛行させる場合には、規定が適用されない。
国・地方公共団体にかかわらない事業者独自の自主的な災害対応は、許可・承認を取得する必要がある。
災害時の被害状況の調査は、人命や財産に急迫した危難のおそれがある場合における、人命の危機や財産の損傷を回避するための調査については「捜索・救助のために行う無人航空機の飛行」に該当する。